かずきち。の日記

サーバサイドエンジニアのつぶやき

見えないウェブ

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引用:
https://www.ippo.ne.jp/g/574.html


1「見えないウェブ」

 あるところにとても優秀なウェブエンジニアがいた。名前はM氏という。得意なプログラミング言語は数知れない。パソコンのモニタはもちろんマルチスクリーンで、毎日深夜まで一生懸命仕事をしている。友人は彼のことを「スーパーマン」とも呼んでいた。いつも深夜にオンラインチャットで話しかけても必ず返事が帰ってくるからだ。
 彼はウェブが大好きだった。特に広告プログラムが大好きだった。自分のサイトに広告を掲載するとお金になるのだ。いわゆるコンテンツマッチ型広告というやつである。自分のウェブサイトに最適な広告を掲載することができ、ウェブエンジニアにとってこのサービスはまたと言ってないほど、画期的なものだった。このコンテンツマッチ型広告というのは自身のウェブコンテンツに合う最適な広告がウェブサイト上に掲載されるというものであった。もし「豊胸」に関する記事を書けば、「豊胸」に関する広告が掲載され、もし「大学受験」に関する記事を書けば、「大学受験」に関する広告が掲載される。まさに夢のような広告プログラムだった。 彼は来る日も来る日も自分のウェブサイトのコンテンツを増やすために記事を書き続けた。寝る間も惜しんで。この広告プログラムは3000円以上広告掲載費が貯まると自分の銀行口座にお金が振り込まれる。その日はM氏にも訪れた。ついに彼のウェブサイト上における広告掲載料が3000円を超えたのだ。そのお金は自分が持つ都市銀行の口座に即座に振り込まれた。
 しかし、二度と広告費が振り込まれることはなかった。自分の広告プログラムのアカウントが停止になったのだ。でもそれでもM氏はその広告プログラムが再開されることを信じて、自分のウェブサイトに記事を公開し続けたのである。ある時、M氏が街を歩いていると警察官に止められ、「君の職業は何だ?」と尋ねられた。彼はとっさに「ウェブエンジニアです」と答えた。本当は無職にも関わらず。今の彼にとって広告プログラムを使うこともできず、ただただ昔貯めたおこづかいを使っていくしかない。それでも彼は幸せだった。高価な食事ができるわけでもなく、きれいな女性を連れて歩くわけでもない。でも自分の大好きなウェブに毎日接することができるのだから。

2「美女画像」
 あるところにグラビアや美女が大好きなY氏がいた。彼は美女やグラビアには本当に目がない。子供の頃から雑誌に載っているグラビアアイドルが好きだった。週刊誌の巻頭に好きなアイドルが出ていれば必ず買っていた。ある日もある日もウェブ上において美女画像を見つけてはクリッピングをしていた。新聞紙を切り抜いて集めることと同じように、自分のクラウド上の情報を蓄積するサービスにクリッピングしていたのだ。これはぼけーと元気が無い時に眺めるときもあれば、今晩のおかずに使うこともあった。その用途は様々だった。MAVERまとめというウェブサイトにアップロードされている画像を収集することが彼の日課になっていた。
 この世に著作権がないものならば、この写真を大勢の人と共有したいと考えた。そして、ある晩、彼は公開に踏み切ったのだ。巨大掲示板において。彼がクリッピングしてきた写真のクオリティは高く、多くの男性を魅了した。そしてウェブ上で爆発的な人気になった。みんながシェアしようと考えたからだ。ありとあらゆるSNS上でその写真を含むデータがシェアされたのだ。巨大掲示板では彼は「ウェブ界の篠山K信」と崇められるようになっていた。

3「不思議な推薦」
 あるところに推薦サービスを愛する男がいた。彼の名前はT氏。いろんなものの推薦に関するサービスを開発している。彼の推薦アルゴリズムはいたってシンプルだった。「協調フィルタリング」という手法だ。これはいわゆる「あなたと同じ商品を見ている人は、こんな商品も見ていますよ」と推薦する手法だ。大手書籍販売のウェブサイトで用いられる推薦手法だ。人々はその推薦手法をこよなく愛した。なんせ、自分が知らないけれど興味がある商品を次々と推薦してくれるから。自分の好みにあったものが次々と推薦される。友達にも「Tくんがいつも読んでいる本っておもしろそうだよね。僕にも読ませてよ。」と言われる機会が増えてきてうれしくなった。それから半年後、おかしなことが起こった。ある時、T氏が通勤のため電車に乗った時のことである。T氏はいつものように自分がお気に入りの本を読もうと通勤カバンから本を取り出した。でもその電車に乗っている全員がその本を取り出したのだ。なぜか?それは書籍販売のウェブサイトでその本が推薦されたからみんな買っただけなのだ。みんなの「これを読みたい」という意思を失ってしまい、全員がとりあえずこれでいいかと推薦された本を買ってしまったのだ。ウェブ上には売れ筋ランキングがよくある。家電然り、レストラン然り。でもその推薦手法が蔓延してしまうと全員が同じ服装、同じ食生活になってしまったのだ。自分自身とは本当は何なのか?推薦は本当に推薦してくれているのか?それを改めて考え直す時かもしれない。

4「南の島」
 あるところに「Threetriangle」というウェブサービスが大好きな男がいた。彼の名前はS氏がいた。このサービスどんなことができるかというとSNS上に「イ今、S氏はT駅にいます」とタイムライン上に流すことができるのだ。でも彼は位置偽装が好きだった。本当は彼は家にいるにも関わらず、ウェブ上ではT駅にいることができるのだ。それをソーシャルネット上で流すと多くの友人は彼は東京駅にいるのかと思い込む。そして、彼はこんなこともしてみた。「今日はバカンスで南の島のH島に来ています」とつぶやいてみることもあった。彼の友人の多くはS氏はハワイにいるのか、仕事を頑張らないとなと思い、さらに仕事を頑張る。その友人が納めた税金が彼のもとに生活保護費として流れているとも知らずに。

ゴキブリホイホイ
 ある時、毎日毎日ゴキブリに悩まされる主婦M子がいた。彼女は別に雑な正確ではなく、至って几帳面だ。しかし、なぜか彼女に家にはゴキブリが出るのだ。そこで彼女はゴキブリを捕獲するためにゴキブリ捕獲装置を設置することに決めた。最初は台所に。ある程度のゴキブリはひっかかり、彼女は少し満足げだった。でも彼女は満足しなかった。家に出るゴキブリを一網打尽にしたいのだ。そこで彼女は考えた。ゴキブリが侵入する大元にゴキブリ捕獲装置を置けばいいということに。そこで彼女は次の日から自宅の玄関にゴキブリ捕獲装置を設置することに決めた。すると驚くほどにゴキブリがよく取れる。ゴキブリが侵入する大元に設置すれば取れるのだ。これでM子はゴキブリに悩まされることがなくなった。平穏な生活が訪れたのだ。

5「ウェブ研究室」
 あるところに超有名大学の某大学に通うN氏がいた。彼の専攻はウェブだった。彼は一生懸命研究する学生だった。ウェブに関することならなんでもわかるほどウェブによく精通していた。だからこそ、彼は研究会を休むことはなかった。いわゆる皆勤だった。その研究室のミーティングは不思議なところがあって、ミーティングはオンラインのチャット上で行われるのだ。研究会に参加しても先生は出てこない。チャット上に先生が出てきて、研究の進捗を尋ねる。N氏は自分の先生に褒められたいがために一生懸命頑張って、奨学金免除対象者にも選ばれた。言わば、優等生だ。しかし彼はある体を壊して入院してしまったのだ。一生懸命研究を頑張りすぎたのが原因だった。そこで退院した彼は自分の研究がもっと楽になるように工夫をすることにした。するとどうだろう?彼は准教授から教授になることができたのだ。そして自分の研究室を持つことが出来た。そして新たに学生も入ってきた。でもその学生も自分と同じく大学の研究室に顔を出すことはなかった。結局彼は一人さびしく自分の研究室にいたのだ。

6「限定公開」
 あるところに自分の開発したウェブサービスを多くの人に使ってもらいたいと考えるS氏がいた。彼の作るウェブサービスは面白いものばかりだった。彼女とのクリスマスを最高に演出するためのアドバイス提示してくれるウェブサービスや会社の同僚の予定を管理して最適な場所と時間に飲み会を開催するサービスなどを作っていた。どれもユーザにとっては魅力的で面白そうなサービスであった。いつもある程度のユーザは集まるが、爆発的ヒットはしない。いつもそれなりなのだ。ある時、自分の師匠であるY氏にアドバイスを聞いてみた。「僕が作るウェブサービスは画期的なはずなのにいつもなぜか流行らないんです。」と。すると、Y氏はこうアドバイスをしてくれた。「その自分が開発したサービスを限定公開にしろと」。一般リリースをするのではなく、限られた人にのみリリース発表をしろと。彼は半信半疑で自分が作ったサービスを一部の人のみに限定公開した。するとどうだろう?自分のサービスがすさまじい勢いでヒットするではないか。みんな我こそはこの新しいサービスを使いたいと思い、殺到したのである。そうして彼のサービスは大成功した。

7「ソーシャルネットワーク
 あるところにソーシャルネットワークが大好きなY氏がいた。ソーシャルネットワークとは他人が結婚したなど転職したなどの情報をいることができ、現代社会は極めて便利だからだ。だからこそ、彼はY氏はソーシャルネットワークが好きだった。友人が昇進したなどという情報を見れば頑張ろうと思い、違う人が結婚したというフィードを見れば自分も頑張らなくてはと思った。しかし、このソーシャルネットワークには大きな問題があった。参加者はただY氏一人なのだ。友達も同僚も参加などしていない。ただY氏が友達や同僚だと思って話しかけているだけだった。話しかけると返信が返ってくる。「この前のパーティーは誘ってくれてありがとう」と。でも友人ではなかった。単なる人工知能だった。彼はすさまじい速度のソーシャルネットワークの中でただ一人模索しているだけだった。彼はそんな人工知能を見て頑張ろうと思ってただ頑張ろうと思っていた。他の人はというと南の島で彼が一生懸命働いて支払った税金で楽しく暮らしているのであった。

8「アルゴリズムの合コン」
 あるところにアルゴリズムで最適な女性を見つけようとするM氏がいた。彼には考えがあった。身長、体重、容姿、血液型、住まい、職業、趣味などのありとあらゆる項目の最適化を行えば自分に最も合う最適な女性が見つかるだろうと。いつもいつも自分のアルゴリズムで惜しいところまでいく女性はいつもいる。性格以外を除いてはすべて自分のタイプに合うのだ。しかし彼はこの結婚を見送った。アルゴリズムの完全性を満たさないからだ。これからこの条件に合う女性が出てくるはずなのに、今結婚してしまったらもう巡り会えないかもしれないと考えるからだ。そして彼は来る日も来る日も自分の好みにあった最高の女性に巡りあうために努力をした。でも出会うことはなかった。それから月日は30年が過ぎていた。自分に合う最適な女性を探し求めていたらいつしか結婚できずに60歳になっていた。そして独り身だった。恋愛とは妥協であり、その恋愛の完全性を追い求めていたら、いつしか彼は結婚できなくなってしまっていた。

9「ウェブ広告の不思議」
 あるところにオンライン広告を任された広告マンがいた。彼の名前はF氏。一流大学を出て、一流広告企業に勤めることができ、順風満帆な生活が送れると思っていた。彼の仕事はオンライン広告の代理店として、企業に対して広告を売りに行く職業だった。今日も彼はとある食品会社に広告を出稿しませんか?と売りに行くところだった。彼のプレゼンは完璧で、もちろん彼の営業はすぐ契約になった。そこで実際にオンライン広告を出稿する手続きにまで入った。そしてついに彼が手がける広告が世間にお披露目され、オンライン広告として公開される日が来たのだ。クライアントもその結果に大満足だった。しかし、いつまでたってもクライアントの商品の売上は上がらず、広告の効果が出ない。広告は表示されているはずなのに、クライアントの結果に結びつかない。そしてF氏は会社に首を切られてしまった。本当は彼のオンライン広告がユーザの目に止まることはなかったのだ。ただ広告会社は広告プログラムにお金を払ってまるで自分の広告がユーザに見られているという幻想を見せられていたのだ。

10「妄想アイドル」
 あるところにアイドルが大好きな男O氏がいた。彼は根っからのアイドル好きで、アイドルのメッカである電気街にも地方都市から通い詰めるほど大好きだった。家にあるグッズの量も計り知れない。CDはもちろん毎回買っている。それも100枚単位で。自分の推すアイドルが総選挙で1位になってもらうことを夢見て、毎回CDを買っているのだ。でもそのアイドルは存在しなかった。よく出来たボーカロイドだった。実際、彼は握手会に行って本人と握手もしたと言っている。でもそれはボーカロイドによく似たそっくりさんだったのだ。彼はそんなアイドルに会い、握手するために一生懸命働いた。そんなアイドルがいないにも関わらず。

11「レストランガイド」
 あるところにレストランガイドを信じてやまないF氏という男がいた。どんな食事をするにも、そのレストランガイドを信用するのだ。ここは★3つで土日休日はめったに入れないお店なんだとドヤ顔で彼女を連れて行く。出てくる料理は確かに美味しい。味付けも完璧でほっぺがこぼれそうだ。このレストランガイドを信じてよかったなと彼は確信している。また来週の休日も彼は違うお店に足を運び、舌鼓をしていた。でも、そのお店で出てくる商品は単なるコンビニ弁当を温めただけの商品だったのだ。レストランガイドを信じこんで、そのお店の商品がおいしいと勘違いしていただけなのだ。レストランガイドを信じすぎて、いつしか彼は本来の自分の味覚を失ってしまっていたのだ。

12「整形」
 あるところにアイドルが大好きな医者がいた。彼の名前はH氏。現役時代の大学受験では失敗してしまったが、一年浪人して念願の医学部に入った。彼はとあるアイドルグループSBY48が大好きだ。SBYといえば、Sという都市を拠点とするアイドルユニットのことで、世間から注目の的だ。老若男女誰しもがSBY48のことを知っているし、男性なら誰しもが彼女らと結婚したいと願うのであった。彼は医者の卵として生理学、解剖学からありとあらゆる医学部の必修科目をこなしていった。しかし一生懸命勉強すればスるほど、あることに気づいてしまったのだ。それはSBY48というアイドルユニットのメンバー全員の顔が医学的にありえない顔ということに気づいてしまったからである。突然変異が起きない限り、SBY48というアイドルグループのメンバーは誰一人として存在しないからだ。彼は確信した。彼女らは全員整形していると。そしてH氏のアイドルオタクっぷりの熱は冷めてしまったのだ。アイドルと結婚したいという願望から医学部に入ってもう勉強したにも関わらず、医学部に入ってしまったがゆえに知ってはいけない真実を知ってしまったのである。

13「戦争」
 あるところにNという小さな島国があった。この国は小さな島国ながらも国民の大きな努力によって先進国となっていた。その背景には一つ大きな理由があった。戦争である。70年前Nという国は世界的な戦争で敗れ、多くの賠償金を支払わされ、国土も奪われた。だからこそ、その国の国民は戦争で負けたという事実を忘れまいと信じ、邁進した。絶対に大きな国になってやるんだと。その結果、Nという大きな島国は国民の力によってm大きな経済大国になっていった。しかし、この国には大きな秘密があった。70年前に大きな戦争などなかったのだ。ただただ、国の指導者が戦争に負けたとホラを吹くことに
 国民を躍起にさせていただけなのだ。多くの国民はただただ戦争に負けたという事実を深く受け止め、絶対に復興してやるという思い出ここまでのし上がってきたのだ。

14「見えないウェブ」
 あるところにホームレスA氏がいた。新卒以来一生懸命会社勤めてきたにも関わらず。定年退職手前で首を来られてしまった。妻子にも逃げられ、離婚調停で住まいも持って行かれてしまった。お先真っ暗で、今は都内にある公園でホームレス生活をしている。段ボールで生活していることは悔しいが、そんな自分にもホームレスの友人ができ、生活はそれなりに楽しい。空き缶を拾ったりして、生活をしている。
 そんなある日、彼が空き缶拾いをしているとスーツを着た。一人の男性が話しかけてきた。「うちに来て仕事をしないか?」ということだった。内容は教えてもらえなかった。でも彼にとっては、その男に着いて行くしか希望の光はなかったのだ。だから、二つ返事で「いいですよ」といい、仕事を承諾してしまったのだ。
 仕事初日、待ち合わせはR本木ヒルズの30階ということになっている。彼はみすぼらしい格好ではあったものの、待ち合わせ時間きっかりにオフィスに訪れた。着くやいなや仕事を紹介され、コンピュータに表示された本を棚から持ってくるだけの簡単な仕事をするだけで月収50万円を支払うと提示してきたのである。彼はもちろん喜んだ。ただ本棚から本を持ってくるだけで給料がもらえるのだから。
 手続きは済み、彼は働き始めることになった。仕事は簡単だ。コンピュータの画面に表示される書物を本棚から持ってくるだけでいい。モニタに「年金問題」という文字が表示された。彼は本棚の中から「年金」に関する本を持ってきた。たったそれだけでいい。これだけの仕事を朝から晩までしているだけで月収50万ももらえるのだから。でも彼が働いているのは検索エンジン会社だった。モニタに映し出される言葉もユーザが検索ボックスに叩いた言葉だった。ただ男は検索エンジンの内部の一機能として検索単語に関する本を持ってくるだけの男になっていたのである。

15「タブレットまな板」
 あるところに一人の主婦がいた。彼女の名前はK子。料理が得意だった。冷蔵庫にあるものをみるだけで、すぐにありものの料理を作ってしまう。料理のことならお手のものである。
 そんなK氏はいつものようにワイドショーを見ていた。昼ごはんを作り終え、ひとときの休憩時間だ。そしていつものようにテレビショッピングが始まった。「ジャパンネットT」という番組だ。社長のT氏が画期的な商品を独特な口調でセールスする。今日もいつものあの声が炸裂する。「今日、紹介するのはこれー!タブレットまな板!」。従来のタブレット端末の液晶画面がとても強化されたものらしく、タブレットがまな板になるらしい。タブレットの上に材料の野菜を置くとガイドがどのようにして、材料を切ればよいのか解説をしてくれる。そして、調理法まで完全にアドバイスをしてくれる。まさに一家に一台のスグレモノである。K氏は通販番組が終わるやいなや、すぐに電話をしてタブレットまな板を買った。
 数日後、タブレットまな板は届いた。タブレット端末が調理手順を順序良く解説してくれる。大満足だった。夫にも料理が上手になったねと褒められ気分は上々である。タブレットまな板を買って正解だったと確信している。そんな生活にもなれ半年が過ぎた頃にタブレットまな板を調理中に落として壊してしまったのだ。K氏としては不覚である。調理のアドバイスをしてくれるこのまな板はとてもありがたい存在だったから。K氏は慌てて、家電量販店にタブレットまな板の修理を持ち込んだのである。しかし返ってきた答えは虚しい物だった。「当店ではこちらの商品の修理は取り扱いしておりません」と。どこのお店に行っても同じ答えだった。彼女は絶望した。なぜなら自分の料理のほとんどをそのまな板に頼っていたからだ。次の日から、彼女はそのまな板なしで料理をすることになった。元々、料理に自信はあったがまな板に頼る生活になってしまってからは自分で調理方法を考えたこともない。料理ができない体になってしまったのだ。
 そんなある日、夫から話があると言われた。「料理がまずすぎる」。その一言だけで離婚をつきつけられたのだ。今まで、一生懸命料理を頑張ってきたK氏にとってその一言は衝撃的だった。タブレットまな板を買ってつかの間、夫に離婚を突きつけられるとは。そして夫婦は離婚をし、タブレットまな板は生産中止となった。

16「StudyStudy」
 あるところに「StudyStudy」というアプリ開発会社があった。どんな会社かというと勉強を習慣化しようというアプリである。中高生を対象に爆発的ヒットとなり、今や学生の多くが使っている。いつも時間になると携帯端末が「勉強の時間ですよ」と教えてくれ、勉強を促してくれる。高校生のH氏も「StudyStudy」の愛好者だった。
 「StudyStudy」の効果はすさまじく学力がどんどん伸びていく。T大学も夢じゃないくらいに学力が伸びてきた。これはもしかすると合格するかもしれない。学校の担任の先生からも親からも塾の先生からもそう言われ、H氏はその気になっていた。T大学の入試1ヶ月前のある日、StudyStudyというアプリがサービスダウンしてしまったのだ。原因はわからない。ユーザ過多なのか、セキュリティの問題なのか理由はわからない。何はともあれStudyStudyというアプリは使えなくなってしまった。H氏はStudyStudyというアプリがないと勉強出来ない体になっていたのだ。StudyStudyが勉強を促してくれないと自分から勉強することも出来ない。そして1ヶ月前からは無勉強のままT大学の入試を迎え、案の定不合格だった。

17「オンラインメモ」
 あるところに1人のサラリーマンがいた。彼の名前はE氏。E氏は一流企業に勤める凄腕のエリートサラリーマン。そんな彼はいつもオンラインメモというものを活用していた。どんなものかというと自分のメモをありとあらゆる端末で閲覧できるという優れものだ。携帯端末、タブレット端末、パソコン…どんなものだってログインIDとパスワードさえあれば自分のメモを確認できる。E氏はそんな一人だった。彼女に「おすすめのレストラン知ってる?」と聞かれれば、そのメモを見て答えられたし…友達に「おすすめの服知ってる?」と聞かれれば、そのメモを見て答えられた。まさにE氏にとって、オンラインメモはなくてはならない存在となっていた。
 そんなある日、オンラインメモのサーバがアクセス過剰でダウンしてしまった。その日はE氏の大事な出張がある日だった。いつも出張で持っていくものをオンラインメモに保存をしていて、この日のサービスのダウンによって、E氏は出張に何を持って行けばいいのかわからなくなってしまった。
 とりあえず、自分なりに準備をして出張に出かけた。しかし、忘れ物ばっかである。重要な書類を忘れてしまい、大事な商談も決裂になってしまった。いつもオンラインメモに頼っている生活に慣れてしまったせいで、自分では何も出張の準備ができなくなってしまったのである。

18「書籍販売」
 あるところに「Jungle」という名前のオンラインで書籍を売るサイトがあった。「Jungle」のホームページで書籍を注文すれば、2,3日で全国どこでも配達をしてくれるサービスだ。しかも2500円以上の注文で送料は無料である。このサービスは便利で、一般大衆から圧倒的支持を得た。ネット上で莫大な量の書籍の中から注文をできるのである。
 F氏は今日も「Jungle」で今日も書籍を買い物しようとしていた。自分が買いたいベストセラーがあったからだ。最近、通勤電車の中でもこの本を読んでいる人は多い。F氏は自分もその本を読みたいと思って注文したのだ。
 2,3日して「Jungle」から本が届いた。でも本当は「Jungle」ではなかった。近所の本屋さんが「Jungle」から電話で発送するようにと言われ、届けていただけだった。多くの人があると信じている「Jungle」。でも本当は近所の本屋が勝手に作った幻想だった。このおかげで本の売上は前年比25%増になった。

19「限りある資源」
 あるところにN氏という科学者がいた。彼の専攻は化学で、ある物質を異なる物質に変換することが得意だ。半減期を用いたもので、元素固有の半減期を早めることによって異なる物質を作り出すというものだ。例えば、ヘリウムを放出することで、質量数が4だけ小さい物質ができるというものだ。
 N氏は来る日も来る日も研究を続け、ある日この半減期を早める方法を発見したのだ。この技術を用いれば今のこの星が抱える石油不足というエネルギー問題も解決することができる。この研究は瞬く間に脚光を浴び、シャーベル物理学賞に選ばれた。人々は喜び、この新燃料を用いて、豊かな暮らしをした。しかし人々はこの新燃料が抱える大きな問題に気づいていなかったのだ。確かにこの新燃料は画期的なもので従来のエネルギー問題を解決してくれる、しかしながら従来以上に廃棄物を排出してしまうという大きな問題があった。人々はこの新燃料に浮かれ、この新燃料を使いすぎてしまった。空気は汚れ、土壌から何から何まで汚染され、この星は人間が住める星ではなくなってしまった。N氏の新技術さえなければ、人間はもっと長く生きることができたかもしれないのに。

20「ダイオウイカ
 最近、巷ではダイオウイカという深海生物が撮影されたりして話題になっている。科学技術が今ほど発達する前まではダイオウイカなんていう生物は発見もできないし、まして撮影できるということは考えられなかった。しかし今日の科学技術の進歩によって、それが可能になったのだ。人々は未知なる生物の不思議に度肝を抜かれ、我こそはその生物を見ようと博物館に足を運んだ。ダイオウイカはホルマリン漬けされ、展示されていた。本来は体内に尿素を含む生物で極めて悪臭で食べられたものではないという。
 回転寿司の価格破壊が起きていた。オートメーション化が進み、寿司のネタも自動でにぎられ、徹底されたコストカットが行われた。人の手で握るより、ロボットが握ったほうが正確でシャリも完璧にできる。人々は安かろう、悪かろうでK寿司という回転寿司屋に通った。確かに美味しい。でも、そこに流れていたのはダイオウイカだったのだ。人々は世紀の発見として喜んでいたダイオウイカを実は食べていたのだ。でもその尿素の臭さには気づかず。毎日のように臭い空気に触れ、慣れてしまってダイオウイカの臭さに気づくわけもなかった。そして彼らは当たり前のように実はダイオウイカを回転寿司屋で口にしていたのだ。

21.「英会話スクール」
 あるところに語学学者M氏がいた。彼は高学歴で超一流大学で語学を研究していた。しかし、高学歴すぎる故か就職できずに一人研究室に篭っていた。そんな彼は画期的な語学を思いついて、言語を作り出すことに成功したのだ。エスペラント語と非常によく似た文法構造を持っていて、言葉をしゃべれなく、目で直感的に理解できる言語だ。彼は自身の言葉を普及させるために自身が主催する語学学校を開いた。
 「MCC」という名前だ。Mは自分の名前、あとのCCはM Communication Centerの頭文字を取り、それらを並べてMCCと。言語とは遡ると自然発生的に生まれてきたものではない。誰かが自身の語学学校を作りたいという思いからできたものである。

22.「大都会」
 あるところに大都会に住んでいる少年がいた。少年の名前はK。真面目な正確で、規則正しい生活を送っている。昔から親には「いい子は夜に出歩くものじゃない」と言われて育ってきた。マザコンとかも知れないが、至っていい子に育ってきた。
 そんなKは一度でいいから夜の街を歩いてみたいと思っていた。3連休で両親は別荘に行くという。これはまたとないチャンスだ。Kは親が旅行に行っているのをいいことに夜の街に繰り出してみた。
 しかし、どこに行っても人っ子一人いない。夜の街はさぞかし、賑わっているんだろうなと思ったKにとっては拍子抜けだった。しかし、間違いではなかった。ゲームセンターの前にカップルがウジャウジャいて、賑わっているではないか。夜の街に来て良かった。Kはそう思った。プリクラを撮るカップル、飲み会明けで騒ぐグループ。酒に酔って、吐いているもの者もいる。まさしくKが想像した都会の風景。
 でも本当は違ったのだ。夜の街にいたのは全員ロボットだった。大人たちが作り上げたとボットだった。子供をいい子に育てるために、反面教師を作らなければいけないと文部省が極秘に作り上げたロボットだった。Kは大都会で見た大人たちの生き様を見て、こんな大人になってはいけないと会心をした。そして猛勉強をし、超有名大学に進学したのだった。

23.「時計」
 あるところに勤勉で真面目なMという男がいた。仕事も休んだこともなく、一生懸命働く。彼の仕事は金融で朝から晩まで債券の仕事に追われていた。債券というのはいわゆる借金のことだ。国の発行する債券は国債、会社が発行する債券は社債といった具合に。
 そんなMはいつも会社で怒られていた。「どうして仕事ができないんだ?」といつも上司に言われる。いつも会社の同僚も朝から晩まで自分と同じ時間だけ働いている。一生懸命働いているからだろうか?同僚の顔も自分の顔も少しずつ元気がなくなってくる。いわゆる過労である。
 ある日、Mは自分が大好きな彼女とデートをした。月に1回のペースでははあるが、もう付き合って2年。結婚もしたい。今日は映画館でデートをした後に、近くのショッピングモールで買い物。そして一緒に夕食を食べるコースのつもりだ。その時間は楽しくあっという間に過ぎてしまった。
 Mは考えた。どうして彼女といる時間はこんなにも短く感じてしまうのに、会社にいる時間はこんなにも長く感じてしまうのか?人生はそんなものだ。でも本当は違った。会社の時間は48時間が24時間になるように改造されていたのだ。今日は10時間働いたと思ったMは実は20時間働いていたのだ。彼女と話も合わないわけで、どうもおかしいと思っていた。自分の会社は実はブラック企業だった。時計が進むスピードがべらぼうに遅くなるように設定されている。働けど、働けど、時間は進まない。こうしてMは過労で倒れてしまった。

24.「トイレ」
 ある国にとても凄腕の科学者がいた。彼の名前はY。国際的な科学コンクールにも何度も入賞している。そんな彼は長年の努力の甲斐あって、とても画期的な実験装置を作り上げた。その名も「リユースフード」。端的な話、トイレなどに蓄積された排泄物に化学処理を加える事でもう一度栄養素のある食事を再構成するというものだ。この開発にかかるコストも少なく、画期的な方法だとして国の食料管理省も数年前から力を入れていた。国のトップレベルの秘密事項である。それがついに実現したのだ。この手法はすぐさま多くの生産者が導入した。排泄物からもう一度再生可能な食物を作ることができるのだから。リユースフードは瞬く間に世界に浸透し、世界の食糧危機は回避された。人間がもう一度、自分の排泄物を口にするという形で。

25.「大学受験」
 あるところに小さな島国Nがあった。小さな島国Nは人口問題、食糧問題、高齢化社会といった様々な問題を抱えている。その国の文部科学大臣Mは日頃から疑問に思っている事があった。大学入試の難度を上げて、優秀な人材を排出するには難解な大学入試を実施し、良い学生を輩出すること。それが文部科学省に課せられた職務だと考えていた。そう思ったMは大学入試改革に踏み切った。全大学の難易度を上げて、優秀な人材を選抜しようと。その計画は成功した。斬新な発想、圧倒的な知力で人口問題、食糧問題、高齢化問題といった問題は次々と解決していく。まずは人口問題。建築技術の格段の向上によって狭いスペースを広く感じさせる技術の開発に成功した。次に食糧問題。これも今まで捨てていた廃棄に回っていたファーストフードの廃棄物のリサイクルを行うことに解決した。最後の高齢化問題も年金受給者に対し、パワースーツと呼ばれる筋力をアシストスーツを配布することで、お年寄りも自力で生活できるようになり、介護の心配がなくなった。こうして、大学受験を難しくすることによって、その国が抱える問題の多くは解決していったのだ。
 しかし、新たな問題も浮上していた。思いやりのない社会になってしまったのだ。今までは少ないスペースをゆうく活用する。食べ物は粗末にしないできれいに食べる。お年寄りが電車の中で立っていたら、シルバーシートで席を譲る。と言った思いやりがあった。しかし、科学技術の発達によって亡くなってしまったのだ。
 そこで文部科学大臣Mは改革に踏み切った。今までの大学受験の難易度を下げ、より人間味のある温かい社会にしようと。この政策は大当たりした。電車の中でも若者が高齢者や妊婦に席を譲り、マナーの向上が行われた。しかしN国の国際競争力は低迷してしまった。優しさを重んじるあまり、欧米諸国にどんどん競争で負け、GDPも今や発展途上国に追い抜かされてしまうのではないかという現状だ。首相は気づいた。人にやさしい、より住みやすい社会を作るための政策を実施しても、国際競争力は落ちてしまい、その結果、自国の衰退につながるということに。

26.「資本主義」
 あるところに金こそがすべてという一人の社長がいた。彼の名前はO。儲かる案件があれば、すぐに先行投資を行う。彼の投資判断の基準は百発百中だった。買う株式は何でも儲かったからだ。その儲かったお金で友人とのパーティを催し、Oは誰からも羨ましがられる存在であった。美人の妻と結婚をし、夜景がきれいな高層マンションに住んだ。
 しかしある日、株式市場に金融リスクが蔓延した。隣国のAの国における低所得者向けの住宅金融ローンが焦げ付くというニュースが広がったからだ。株価は大暴落し、Oの金融資産も大きく目減りをした。信用取引という手法にも手を手を出していて、Oの証券口座は焦げ付き、持っていた全証券がロスカットして、強制決済された。その結果、彼に残ったのは6億円の負債だった。

27.「Snake」
 あるところに凄腕プログラマーがいた。どんな難解なプログラムも一夜のうちに完成させてしまう持ち主だ。彼の名前はS、ウェブの巨大匿名掲示板7chでは81氏というハンドルネームで親しわれ、尊敬の眼差しだった。得なプログラミング言語は「Snake」という名前だった。主に言語処理に関して優れ、使っているエンジニアも多い。プログラミングシェアでは2位となる言語だった。世界にもユーザコミニティがたくさん存在する。彼は持ち前のコーディングスキルを思う存分発揮した。彼のコーディングスキルを持ってすればできないことはなかった。
 そんなある日、ある言語に重大なセキュリティホールが見つかったのだ。「Snake」という言語に問題があるらしい。これで書かれたプログラムにユーザがパスワードや暗証番号を入力してしまうとそれが第三者に勝手に送信されてしまうというバグだ。このセキュリティーホールは該当言語の根幹に関わる部分でトップエンジニアでもそう簡単に直せない。Snakeコミュニティに参加している世界のユーザでもそのバグは直すことが出来ず、結局Snakeという言語は廃止になってしまい、開発が打ち切られた。そして、Sは仕事を失い、路頭に迷うことになった。

28.「データセンター」
 あるところに世界で10億人が使っている巨大ソーシャルネットワークサービスがあった。名前はfacedictionary。日本語にすると「顔辞書」ということになる。辞書のように自分の友人の動向を見ることができることからその名が付けられた。M氏もそんなfacedictionaryというSNSの虜になっていた。
 そんなある日、M氏はネット上でfacedictionaryのデータセンターを見た。5haの土地で、ロボットが常に増え続ける投稿をサポートするために基盤を運んでいる。まさに未来の工場。そう言っても過言でなかった。でも実際はそんなデータセンターは存在しなかった。ただの写真で実在はしなかった。M氏がソーシャルネットワーク上で絡んでいる友人は人工知能だった。自分ひとり、そのソーシャルネットワークにいるにも関わらず。「今日はこんな夕食を食べました♪」「今日はこんなところにきました♪」と書き込んで。本当は誰にもその投稿が見られていないにも関わらず。

29.「歯医者」
 あるところに人気の歯医者が会った。Hデンタルクリニック。そこの評判はよく、遠方から訪れる客も多いという。「んーこれは虫歯ですね」「これは歯槽膿漏ですね」と的確な診断で次々と治していく。そんな歯医者に誰しもが尊敬していた。
 しかし、Hデンタルクリニックには大きな秘密があった。本当は虫歯が存在していない患者にも「虫歯ですね」と言っていたのだ。痛み止めと言いつつ、患者を麻酔で眠らせ、治療と言いつつ、腔内に虫歯菌を植え付けていたのだ。

30.「百科事典」
 オンライン百科事典がある。名前は「Fumipedia」。作者の名前のF川の頭文字Fを取ってそう名付けられた。この百科事典は画期的でユーザがどんどん書き込んでいく。新しい事件、新しい人物、そんなものがどんどん追加されていく。人々はFumipediaがオープンプラットフォームの百科事典であることを信じて疑わなかった。
 その頃、F川書店では新たな辞書を出版するための準備が取られていた。F川代表はこういう。我が社のFumipedia」を書籍化しましょうと。「Fumipedia」はオープンプラットフォームのオンライン辞書で誰でも好きなことを書き込める。その辞書を書籍化しようと言うものなのだ。その辞書は発刊されるやいなや、たちまち大人気になった。書かれていることが斬新で、その掲載量も他の辞書の比にならない。そして、その辞書は爆発的大ヒットで市場に迎えられた。本当は単なるオンライン辞書を印刷しただけとも知らずに。

31.「行列ができるパンケーキ屋」 
 若者が集まる街Hにとても有名なパンケーキ屋が会った。若い女の子からは絶大な人気でほっぺが落ちるおいしさと言われていた。来る日も来る日も行列続きでその人気は衰えない。
 しかし、そのパンケーキ屋には大きな秘密があった。本当は大人気でもなんでもないのだ。そのへんにいる暇そうな若い女の子にお金を払って、並んでいてもらうだけなのだ。時給は1500円、彼女らからすれば割のいいバイトだ。ただ並んでいるだけで1時間に1500円ももらえるのだから。そして一方、パンケーキ屋はというとその行列を見た若者に溢れ、大繁盛する。1年もするとパンケーキのブームも去り、誰もその店に並ばなくなった。そうしてパンケーキブームは過ぎていった。